聴診器のベルはいつ使うのか?
テーマは「聴診器のベルはいつ使うのか?」です。聴診器には通常diaphramが付いた膜面と半径が小さくdiaphramがないベル型を持ち、膜面では高音傾向の音を聴く、ベルで低音を聴くのが教科書的な教えです。
日常では膜面を主体に使い、ベルはなかなか使わない場合も多いのが正直なところでしょう。使い方が下手だと音が小さく聞え難いし、また、実臨牀で低音を聞きたい場面でそんなに遭遇するのか。III音、IV音、ランブルを聴くためにベルをという場面は多くない。現在の日本では医療サービスが高く、胸写、心電図、心エコー、胸部CT、血液検査であっても、安価に使えます。しかも、長時間待つこともないという状況であり、患者は容易に受診し、あっという間に診断が付き治療される。僧帽弁狭窄症に至ってはランブルを一所懸命聴くよりもはっきり診断できるのは、心エコーを使うことで分かり、ランブルが聞えるか聞えないかを議論するようなことは先ずありません。しかも、衛生状態が改善して僧帽弁狭窄症は遭遇しなくなってしまいました。40年ぐらい前はあたり前にリウマチ性心臓病が受診し、しかも多いので、ランブルの有無をチェックするのは必須でした。心臓超音波検査があたり前ではなく、Mモード心エコーがあるかないかの時でしたので、聴診器を使いこなすことは重要でした。
従って、現在はベル型聴診器(ベル)を使うことが激減してしまっていると思えます。
割り切って高音重視にするなら、低音が響くリットマンというよりも寧ろ、従来のTunable
diaphramdなしのスタンダードな聴診器(古典的聴診器、標準的聴診器)を使えばいいという考え方もないではありません。そこまで割り切っていいのかは分かりません。
さてSmall head diaphramはClassic II S.E.のように購入時からベルであるもの、Classic
III、Cardiology III, Cardiology IVのように小児用聴診器であるもので、ベルに変更可能なものがあります。
膜が付いているShall Head Sideはとても良く聞えますし、使い勝手がとてもいい場合が多いですから、ベルに変更しないで頸動脈ブルイー、体が痩せている人などさまざまに使えますから、以外と便利です。
わたしが良く使うのはCardiology IVの小児用面ですが、小さい聴診器で聴くと考えれば、音量・音質ともに良好です。使ってみてください。
さて、Littmann Master Classic II, Littmann Master Cardiologyでは、もうOne
Sided Head でダイアフラム面しかないです。
使うのにSkillが必要なbellは止めて、大きいダイアフラム面1本の聴診器であり、bellをもういらないと考えた聴診器ですよね。
異論があるかもしれませんけど、実際のところbellはありませんし、bellに変更できるところもありません。成人用ダイアフラム面の低音に大きな自信があり、bellを兼ねているのでいらないと考えたのでしょう。あるいは、もう循環器において低音を目くじらをたてて聴く時代ではなくなったと考えた結果でしょう。心音のIII音、IV音は感度がとても低く心不全があったとしても10人の心不全で1人聴取できればいいほうであり、IV音を聞ければ心不全である確立はとても高いけれども、聞えなかった心不全は心不全とは言えないということなので、BNP,
NT-proBNP, 胸写、心電図、心臓エコーを行い確実な証拠のある診断をくだすのが寧ろ好ましいとも考えられます。
あるかないか分からないIII音IV音の有無を追及するより、胸写、心電図、心エコー、NT-proBNPを即座にオーダーするでしょう。それで、早急に正確に診断することが出来るようになりました。
ある意味、心臓病の診断では聴診の出番が少なくなり、精度も低いと考えられます。まして、ベルを使う?ってことにもなります。
しかし、小さい膜面は小さい聴診器として十分使えるし、小児でも使えますから、大・小あって多機能なことは好ましくもあります。
ただ、ベルを重視する人は聴診に熱心ですし、使いこなせる人は聴診Skillがあるという証明でもありますから、医師としては正しいでしょう。感度が低いIII、IV音も重要な所見であるのですから、聴診器を当てて直ぐに診断し、補助診断として、検査を行うという本来の医療のあり方で好ましいと思います。
ただ、恰好をつけたい、見栄を張りたいということでベル必要論を唱えてもらっても困りまね。
高齢者では、動脈硬化が進み僧帽弁逆流(閉鎖不全)、大動脈弁狭窄、同閉鎖不全、心硬化による逆向性の肺高血圧由来の肺動脈弁逆流(閉鎖不全)等が多く臨牀で遭遇するようになり、これらの音は膜面があれば十分なのです。だた、大きい膜面が高周波に優れていてもらわないと困ります。低音から高音まで聴くダイアフラムですが、やや高周波に弱点がありますというようなことでは困り果てた聴診器であるということになりますので、聴診器を買うのも結構選択が難しいのです。
みんなが買う聴診器はいい聴診器!という見下げ果てた考えではいけませんよね。ただ初心者は皆さん聴診器を使ったこともないわけですから、情報収集をして決定、聞き比べて決定するしか方法はないと思います。経験を積んで聴診器不要論を唱える医者になってしまわないならば、いい聴診器を選択できるようになると思います。(断言はしません。)
ベルの話ではありませんけれども、肺炎症性疾患や喘息などでは聴診器の出番は大きいのです。
喘息は胸写に写りません。CTにも写りません。ただ、聴診器では一発で分かります。
腫瘍はわかりませんけど・・・。結核も・・・感度が極めて低いです。
肺炎、喘息は多い疾患なので聴診は重要なのです。
聴診器をちょっと当てれば即座に分かりますので、それから、検査オーダーを出します。聴診器がないと喘息も診察で分かり難いです。以上の聴診は聴診器の膜面で行います。
じゃぁ、ベルっていつ使うの?ってことであり、出番が極めてなくなりました。
そのためか、膜面で聴診しベルで聴診することの手間を省きたいということで、膜面だけで、低音から高音まで聴くという聴診器が登場しています。
従来の聴診器よりも劣る部分とあるのですが、簡単で手間が省けます。
従来の聴診器と音質も異なって、シャープに聞えるのではなく、少し鈍い音になりました。
さて、ベルですが、今回、Littmann Cardiology IIIの小児用の部分をダイアフラムをスリーブに変更してベル聴診器としてはどうかを調べました。ベル型は使い難い、音が小さいなどの欠点が至適されましたが、今回の変更では、正確に皮膚面当てれば大きな音に聞えました。スリーブはCardiology IVに付属していたものを使いました。ジャストフィットします。これだけ、大きく聞え、しかも音が膜(diaphram)で修飾されていないので、スキッとした音です。ちょっと強めに当てると皮膚が緊張してdiaphramとして働きます。低音がカットされるという表現もあります。よく聞こえますし、直径が小さいので、体が小さい人、頸動脈雑音などにとても有用でした。 小児用面のdiaphramをベル型に変更しても十分意味があるということです。体の小さい日本人ではベルも膜面も十分に使えます。
サスペンド・ダイアフラム機能は必要ありません。膜面だけで低音から高音までという機能も必要ありません。現在の日本の医療体制では従来の聴診器のほうがいいし、膜で低音ひらうようにしたdiaphramはいらないのではないかと思えます。ベルが使いこなせれば十分です。
聴診器の購入に当たっては、このことを考慮する必要があると考えます。
残念なことに、Littmannには、Littmann Cardiology IIのような古典的でかつ高機能聴診器はなく、殆どがサスペンディッド・ダイアフラムにです。
Cardiology IIのような評価の高い聴診器は今はLittmannからは購入できませんが、同様の聴診器は他社にはあります。日本製も海外製品も。
単に価格が高いのでいい聴診器、日本で使うのに最も適切な聴診器ということにはなりません。
P.S.
Cardiology III, IVの小児用面も成人でも十分使えます。便利です。
古典的聴診器を賞賛しましたが、Littmann聴診器のMaster Classic, Cardiology III, IV, Master Cardiologyであれば高周波数に少し弱いかな?ということも感じますが、それで臨牀実用に使えないということでは全くありません。安心して使ってくださいね。世界的にもとても評価の高い聴診器ですのでご心配なく。
余計なお世話
ベルは皮膚面にノンチルスリーブが隙間なく軽く当たっていないと聞こえがわるいです。また、圧を加えすぎると皮膚が緊張して低音がブロックされます。
ベルは聴診部位に正確に当たっていないと聞こえが悪いです。
特に使うのは心尖部あたりでしょうから、心尖拍動が分かればそれで分かります。レントゲンであたりをつけることも可能です。心尖拍動がはっきりしなければ打診であたりをつけるというべきかもしれません。最近は打診を丁寧にしているひとを余り見かけませんけどね。ほかには、本来の心尖拍動があるあたりに聴診器をあてて、そこから外側にインチングするということもでします。まぁ、グルリと当てて見てもいいでしょう。
腹部で血管雑音を聴くにはベルを使います。別を腹壁から押し込んで血管に近接するようにするという論文があります。